入学時は化学が決して得意でなかった学生も多い中で、基礎から化学を学び直し、専門的な知識と技術を修得し、最後の集大成として2年次後期から「卒業研究」に取り組みます。自らが選んだテーマをグループで集約しながら取り組み、実験手順、方法、必要な試薬や機器選択まで、グループの仲間と担当教員とディスカッションをしながら進めて行きます。
そこでは社会人として必要な要素である、主体性、思考力、判断力、表現力、主体性、多様性、協調性なども培うという目的があります。
最後の卒業研究発表会では、ご両親や内定企業のご関係者、中には出身高校の先生の前で、それぞれ担当を分けてプレゼンテーションを行います。
発表を終えた学生たちは、達成感を味わいながら、社会人としてスタートしていくのです。
動植物の細胞の研究を進める上で、DNAの分析技術は非常に有用ですが、一般に広く使用されるDNAの分析試薬は、非常に高価であるため分析コストがかかってしまいます。そこで本研究では、抗がん剤として安価で大量に生産され、DNAの二重らせん構造にのみ選択的に結合するアドリアマイシンに注目し、DNAの分析試薬として活用すべく研究を進めました。アドリアマイシンは分析試薬としての基礎的な分析化学的データが乏しいため、まずは1分子のアドリアマイシンがどのようにDNA塩基対と結合するのか、その結合比を測定しました。このような基礎研究を重ねることは、より安価で安全な分子生物学的な実験を実現するために貢献することができると考えます。
虫歯菌であるミュータンス菌を抑制する効果がある食品があれば、食事をしながら虫歯を予防できるかもしれません。本研究では、日本人の食文化において非常に関わりの深い納豆に着目し、納豆製品に付着している納豆菌が、ミュータンス菌に対すて生育抑制効果を示すか検証を行いました。その結果、納豆菌が形成した芽胞に含まれる成分が、ミュータンス菌の生育を抑制する可能性が認められました。今後は、納豆の種類別で抗菌活性を比較したり、実際の食事状況に近い条件での抗菌性の検討を行いたいと考えています。
食虫植物「ウツボカズラ」は「落とし穴式」の食虫植物で、小動物を取る捕虫器の中には消化液が入っています。このウツボカズラが自生している地域の人々は、その分泌する消化液を水の代わりに飲んだり、目薬として利用したりしています。つまり、経験的に身体に何らかの生理活性を与えていると考えられていました。そこでこの研究では、世界で初めて、化学的にこの消化液を10種類分析してみました。 その結果、10種類のうち何種類かは消化を助ける効果や抗菌効果が見いだされ、大変興味深い結果となりました。この研究をさらに深めることで、消化液成分を医薬品材料として活用するなどの発展が期待できます。 本研究成果は、全国工業専門学校協会「第3回 学生成果発表会」でも発表しました。
整腸剤には「乳酸菌が生きたまま腸まで届く」とアピールしているものがあります。「強酸性の胃を通って本当に生きたまま腸まで届くの?」という素朴な疑問から研究がスタート。人工胃液から人工腸液へと移動する中で、整腸剤中の乳酸菌がどれだけ生き残って活動できるかを調べました。乳酸菌には胞子のある「有胞子性」のものと、そうでない「無胞子性」のものがありますが、有胞子性乳酸菌は胃液の中でも生存率が高く、無胞子性乳酸菌は胃液の中では生存率は低いものの腸内で数が増えやすい、ということで一長一短であることがわかりました。この実験を通して、微生物を扱うバイオ系企業で役立つ技術がしっかり身につきました。
最近ドラッグストアなどで目にする水素水。水素が体に良い理由はなぜ?そんな疑問が研究の出発点でした。調べると、水素は加齢や疾患の原因となる活性酸素などの活性種を除去している可能性があることや、水素水を飲むだけでは長時間、水素を体内に保てないことが分かりました。さらに、食物繊維があると腸内細菌による発酵で水素が発生することも報告されていました。そこで、食物繊維が豊富な玄米と、食物繊維が豊富な糠を取り除いた白米を食べて、水素発生量に違いがあるか、呼気中の水素濃度を測ることで検証しました。その結果、玄米の方が白米よりも多くの水素が長時間発生することが分かりました。食物繊維以外にも、どのような食品成分が水素生成に関与しているのか、検討を続けたいです。
チョコレートの原料カカオに含まれるPEA(β-フェニルエチルアミン)は、脳内分泌物質でもあり、恋に落ちた気分にさせると言われる物質。このPEAが本当にチョコレートに含まれているならバレンタインデーにアピールできる! と考え、研究に取り組みました。しかし、分析事例は文献などにも見あたらず、ほぼゼロからの出発でした。PEAはカカオ豆の皮に含まれていてチョコレートの原料になる際に皮が除去されるため、カカオの含有量に関係なく、カカオ豆の処理状態によりPEAの含有量が変化することがわかりました。市販のチョコレートから脂質やタンパク質を取り除き、純粋なPEAを抽出する過程で食品分析の前処理方法はしっかり身につきました。
香水やコーヒーなど「香り」を期待して購入する製品をインターネットで購入すると、いざ届いたときに「期待していた香りと違う...」ということも起こりうるのが現状です。そこで、今回は市販のコーヒー豆を用いて、その香りを分析機器によって解析し、香りを目に見える形にすることで、実際ににおいを嗅がなくても、目で見るだけで香りの特徴が分かるようにできないか研究しました。解析には、全国でも所有する学校が少ない、ヒトの嗅覚に近い仕組みで分析できる「におい識別装置」使用。その結果、コーヒー数種について香りをグラフ化することができ、かつ、その測定結果が、実際にヒトの鼻で嗅いだ官能評価の結果と一致しました。つまり、そのグラフによって、実際に嗅いだときどんな香りがするかほぼ大差なく表現できることが分かったのです。 この研究結果は、「第31回におい・かおり環境学会」にて発表しました。この学会では専門学校の発表は初めてだったということもあり、多くの参加者から注目いただきました。
アミノ酸は医薬品や食品・化粧品などさまざまな製品に含まれているため、分析対象としてニーズが高い物質です。しかし、高価なアミノ酸分析装置を所有する企業や研究室は限られています。そこで、学校などでも所有している汎用的なHPLCを用いたアミノ酸分析を普及したいというのが研究の始まりでした。研究の結果、OPAでアミノ酸を誘導体化し、ODSカラムを用いることでシステイン以外のアミノ酸を検出できる分析法を開発しました。さらに、すべてのアミノ酸が一度に検出でき、コストや時間を意識した分析法の開発を続けたいです。機器分析の基本を学んだからこそできることだと自信がつきました。
新聞に出ていた「鳴き砂」のコラムを読んで興味がわき、その成分を調査しました。サンプルは京都の琴引浜と砂方浜、鳥取の陸上浜の三カ所から採取。鳴き砂は石英を60%以上含み、粒径が大きい特徴があることをまず文献で確認した上で、各浜の砂粒の大きさや金属とシリカ(酸化ケイ素)の含有量を調べました。顕微鏡で粒径分布を見ると、琴引浜と砂方浜の粒が陸上浜より大きめ。シリカは三カ所とも60%以上でしたが、陸上浜は金属量の数値も高く、鳴き砂の条件に合わなくなってきていることがわかりました。次は海水汚染が鳴き砂にどう影響するのかなど、引き続き研究していきたいと思っています。
空気や水など、環境を浄化する技術として注目を集めているのが光触媒。「酸化チタン」という物質が光に反応して活性酸素をつくり、有害物質を分解して無害化する、というのがその原理です。酸化チタンは太陽光のごく一部である紫外光にしか反応しませんが、卒業研究では太陽光の50%を占める可視光で反応させてみようと試みました。試行錯誤を重ねるうちに、実験の狙いとは別に、光触媒には物質を「分解する」だけでなく、「放出する」という機能もあることを発見することができました。次はこの発見をもとに「光をあてれば有益な物質を出す」、そんな光触媒を開発していきたいですね。
天然の物質でやせるには?ということで、このテーマが決まりました。唐辛子の辛み成分「カプサイシン」には、体のむくみや冷え症を治すだけでなく、脂肪を燃やすダイエット効果があります。ただし、それをそのまま飲むとお腹をこわしたりするので、胃の中でだけカプサイシンを放出して効き目が出る「放出制御システム」をつくろう、ということになりました。まずは唐辛子からカプサイシンを抽出。ソフトコンタクトレンズと同じゲル状の材料に閉じ込めた上で、カニの甲羅と海草の成分からつくった天然物質(pHの変化で反応する)をコーティングした結果、胃の中でだけカプサイシンを放出する食品ができました。研究を通じて、試行錯誤しながら考える力がたっぷりつきました。
年間80万トンも廃棄されるおからの有効利用を模索している中で、おからからセルロース(繊維の素)を取り出し、服の裏地などに使われている繊維「キュプラ」をつくってみようということになり、この研究はスタートしました。まずはおからの水分を飛ばして、次にタンパク質やデンプンを除去。最後に残ったセルロースを、キュプラをつくるための「シュバイツァー試薬」に入れて溶かします。この液を注射器で吸い取って、薄い酸性溶液に絞り出すと、見事キュプラの出来上がり! 先輩が行った研究からの継続ですが、問題となる回収率の低さを解消すべく、私たちは取り組みました。結果、おからに含まれるすべてのセルロースを回収できたのが大きな進歩でした。